稲垣美侑 Miyuki Inagaki 
Habitats

10 June- 28 June 2025

 

Pond Songs/273×220mm/Oil on cotton/2025

 

この度CLEAR GALLERY TOKYOは、稲垣美侑の個展「Habitats」を開催いたします。

誰かが歩くたび、草はわずかに身をよじり、地面の下では無数の根が、種が、微かに触れ合っている。
枝の先で眠る虫の鼓動、春をつげる鳥の声、水面をかすめる風の軌跡、私たちがふと見逃す足元の影さえも
--世界は静かに宿り、この地を満たしている。

“Habitat” という言葉は、ラテン語の habitare(住む、居住する)を語源とし、生物学や環境学では
「特定の生物種が生息し、成長し、繁殖するために必要な物理的・生物的条件を満たす環境や空間」
を指す言葉として扱われる。またこの語は、単なる物理的な場所にとどまらず、生きものとその環境
との関係性、つまり〈存在の条件〉そのものを含意している。「環境」は単なる空間的な区画ではなく、
温度・湿度・光・栄養素といった無生物的要素と、同種や他種の生物、さらには微生物群集までを含む
多層的な生態ネットワークの総体として捉えられている。

日常のなかに潜む多層的な「生息地(habitats)」。それら棲みかをめぐる断片を周期的に観察することで、
異なるスケールや視点に触れてみる。それはかつて何者かが棲まう家であり、忘れられた空き地であり、
動物や植物の暮らす自然環境であり、同時に私たち人間が無意識のうちに共存している無数の生命の気配や
痕跡が織りなされた空間である。

そして” 絵画” もまた、あるひとつの habitat――何らかのイメージが生成される複雑な生の場所といえるかも知れない。
それは囲いでも支配でもなく、境界線のにじむ日常の余白のようなものであり、絵は見えない多層の世界と、
私たちの感覚のあいだに生まれた接点としてある。

揺れうごき重なりあう輪郭が、大気に溶け込み色を成す。
異なる生きものたちの棲みかに忍び込み、知らず知らずのうちに、また新しい誰かの
風景の一部となるように。

ここにある、
息する地が広がっている。

稲垣 美侑
Miyuki INAGAKI

世界はどのような姿をしていたか。
棲家や庭先といった身近な住環境、自然や動植物が育くむささやかな生態を周期的に観察することにより、
対象や場所に内包される記憶や諸感覚を拾いあげ、描く行為を通じて、私たちの生きる場所やその先に
広がる景色について問い続けている。

神奈川県生まれ​
2024年現在、東京を拠点に制作を行う。

2014     東京藝術大学 美術学部絵画科 油画専攻 卒業
2015     石橋財団 短期派遣プログラム奨学生 (短期欧州研修渡航)
2015-2016  ナント美術大学(フランス) 半期交換留学
2017     東京藝術大学 大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画 修了
2021.3 東京藝術大学 大学院美術研究科 博士後期課程 美術専攻油画 博士号取得

BIOGRAPHY