岡野 智史 Satoshi Okano
CONY

8 July - 6 August 2022

 

“PC“ 2022, acrylic on canvas, 50×60.5cm

 

この度CLEAR GALLERY TOKYOでは、岡野智史の個展「CONY (コニー)」を開催いたします。
岡野智史が独自に開発した技法をもとにエアブラシで描くアクリル画の作品は、注意深く吹きつけられた絵の具が画布の上でピクセル状に分割され、線は滲み曖昧で、ピントの合わない図像は低解像度の映像のようでもあり、画面自体が発光しているようにみえます。
アクリル画の作品のモチーフは昔のテレビアニメの一場面や古雑誌から抽出されており、作家の個人的な思いや意図と一定の距離を保つことで、対象物をどのように描くかという試験的な探求に注力しています。
一方油彩画と鉛筆画は、描いては消してを繰り返し、画面に浮かびあがる図像を探る(修行のような)ことだと岡野は言います。
岡野のエアブラシで描かれた絵画が、形(線)から始まりながらも、表面から絵の具を画布に染み込ませることで境界をぼかし、光を表現しようとしているの対して、油彩画と鉛筆画は、岡野の形なきイメージを現像をするように、幾重に重ねられる筆で、画面の内側から形を浮かびあがらせることによって、対象物に光を当て、その存在を露わにしていきます。
本展ではアクリル画の作品を中心に新作の平面作品を発表いたします。ぜひこの機会にご覧ください。


岡野智史「cony」に寄せて

吉村真(美術史研究)

絵画が鑑賞者に対して与える現象としての光には、イメージのレベルで再現されたそれと絵画という事物それ自体に実現されたそれ、つまり画中光と画面光の大きく二種の様相があると言えるが、岡野智史の作品がもつ光はその両者のあいだでたえず振幅している。例えば作家が数年来取り組んでいる、1980-90年代のアニメやゲームの一場面ないし商品広告をもとにしたどこか奇妙なイメージを描いたアクリル画の場合、まず画面全体が(低画質ブラウン管の)ディスプレイのように仄かに滲んだ光を放っているように見える。だが、それが単なるディスプレイのイリュージョンに終わっていないのは、じっと眺めているうちに画中の人物や光らないはずの道具類が発光体と化しているような観を呈してくるからだ。ディスプレイ上の画像をモチーフとして扱う絵画作品は珍しくなく、ピクセルという元画像の不連続な構成要素を絵具の筆致に置き換えて、イメージ以前の物質性を強調する傾向が近年目立つが、岡野はそれと対極的なアプローチをとっている。同一色の面ごとに型紙をつくってキャンバスに当て、その上からエアブラシで絵具を吹き掛けて描かれた岡野のアクリル画では、イメージが物質的な最小単位に分解されるのではなく、支持体の物質性の方が光の滲みのなかで揮発し、同時にイメージは場から浮いたヴァーチャルな実在感をまとうのである。

ピクセル技術の先駆にジョルジュ・スーラの点描画法が挙げられるのに対し、岡野はサント・ヴィクトワール山を描いたポール・セザンヌの作品が自身にとっての絵画の原体験であると述べる。このことは、セザンヌがモチーフを眼前にしての身体的リズムを有する筆触による制作に生涯こだわった画家であるだけに意外に思われるかもしれない。しかし、絵が生み出す現象としての光に着目すると、セザンヌが描く山や石切場の岩肌も、ときに画面上の青灰色や黄土色の広がりとして輝いているか、岩肌自ら画中で光を放っているように見える。あるいは光が岩肌として画中と画面のはざまの「どこでもない場所」に現れていると言うべきか。当然ながらキャンバス自体は発光物でなく、あくまで外部からの照明を受けて可視化されるのであり、ゆえに、西洋絵画の伝統においては貴金属や絹織物、果実の表皮など、この世にあふれる事物が照明光のもとで示す多様なきめと反射を画中光として再現することに重きが置かれていた。とすれば、セザンヌはやがて絵画が画面光という新たな光の獲得へとむかう転換点を示していた。

画像という媒介をとおして自己の身体性と主観性を抑制した岡野の制作手法は、むしろピクセル絵画のもっともラディカルな例の作者でもあるゲルハルト・リヒターのそれに近い。だがリヒターのように近代絵画との断絶を強調して、見えるものは光=仮象に過ぎないことを絵画のかたちでアイロニカルに提示するのではなく、岡野作品は現象としての光=ヴァーチャルな実在という観点から近代絵画の系譜を捉え返すことへとわれわれを誘う。もし、彼の絵画がある種のノスタルジーを感じさせるとすれば、それはそもそも美術史が記述してこなかった絵画のあり方を想起させるものだからだろう。


岡野 智史 Satoshi Okano

1979年生まれ、埼玉県出身。 
2004年武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。 東京を拠点に制作を行う。
対象についての考察と技法の実験を制作のテーマに、油彩画、鉛筆画のほか、エアブラシを用いて描いた作品を制作している。

Born in Saitama in 1979, currently based in Tokyo, Japan. Majored in Oil Painting at Musashino Art University.
Okano paints unconventional and humorous landscapes using airbrush and pencil techniques that he has developed himself.
The theme of his work is to consider the subject matter and experiment with techniques, and the discrepancies that arise are the appeal of his work.

Exhibitions
2021 “Hi-Vision, Act 2”, CLEAR GALLERY TOKYO, CLEAR GALLERY TOKYO, Tokyo
   “Hi-Vision”, CLEAR GALLERY TOKYO, Art Fair Tokyo 2021, Tokyo
2020 “A SPACE ODYSSEY”, CLEAR GALLERY TOKYO, Tokyo
2018 “cast” mograg gallery, Tokyo
2016 “フェットプロジェクト2016”府中市美術館市民ギャラリー, Tokyo
2015 “ペイントペイパー” momurag, Kyoto
2014 “Slash Square” gallery5 / Tokyo Opera City, Tokyo
2012 “世界と孤独 vol.4 岡野智史×佐藤玲子展” 高島屋 美術画廊X, Tokyo
2011 “ペイント ウィスパー” Loop Hole, Tokyo
   “WASTE STYLE”mograg garage, Tokyo
2008 “O JUN、岡野智史、国宗浩之、新関創之介:大人しくしなさい。果実食器国宗浩之たち” LOOPHOLE, Tokyo